沈黙/岡部淳太郎
 
すじを伸
ばして、赤くなり、はじめて、歩いて、いかなければ、

十一月の、乾ききった、あかぎれ、であった、痛みは油
彩のように、こびりつき、野は枯れて、果てて、いつと
はなしに、語りつづける、肩に降りつもる、掌、肩をた
たく、掌、どれもみな終末のように、赤い、(そろそろ
見頃ですよ)と、蟻の勤勉さで近づく、声、あるいは、
声のない木鼠の、あ、という声、いずれも静寂、やって
くる寒い風に、かき消され、石は道端に置かれたまま、
木の幹にうがたれた、穴は、ふさがれる。(これ以上、
深く潜っては、いけない、)遠い古里の、さびれた、絵
葉書のような、散歩道、刀身は錆びて、傷つき、ぼろ
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