ホルバインの描く奇妙な染みと静けさ/樹圭介
、あなたがたはそのこ
とを嘆いてはいけない。寧ろ、彷徨う旅人をせ
せら笑う幸運が我が身に在ることを主に感謝し
なければならない。
なす術もなく立ち尽くす老女よ。あなたは美し
い。けれど、老女よ。私はあなたと会うことは
決してない。それを望みもしない。注意。誰か
が見れば、立ち尽くす女と立ち尽くす男。黄昏
時。草木の一日の末期の輝き。山の稜線が赤く
染まる。彼らは驚いているかもしれない。彼ら
以外の生き物の微かな気配さえ感じられないこ
とに。ここは世界の果て?あるいは世界の終わ
り?そう考えたとしても彼らを責めることはで
きない。注意。天候。朝から曇り空。気の早い
星
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