ホルバインの描く奇妙な染みと静けさ/樹圭介
星が西北西に顔を出している。雨?お望みなら
数滴。朝の数滴。最後は現在形で。
目をどこにおこうとも何も証拠がない。目は退
却し狂女がそこに現れる。やっとまず岩棚の影
が現れる。我慢しているとその影は死にかけた
残骸で息をふき返す。最後に一つの頭蓋骨全体
がはっきり浮かびあがる。こんな残骸同然のも
ののあいだでただ一つ見るべきもの。彼はまた
岩のなかに前頭骨を戻そうとする。目の窪みに
は昔のまなざしがかいま見られる。ときどき断
崖は消える。すると目は白い遠くに飛んで行こ
うとする。あるいは前方から目をそむける。
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