深い森/HAL
を憶えている
ベッドに横たわったままのぼくの眼には
蒼い月の光が囁きのように映っていた
きみのさっきまでの全裸とは違う
静かな裸体の背景として
あの夜だけだった
性交の後に深い森の匂いが実在したのは
その後 ぼくらは大学を卒業し
もう消息は途絶えてしまった
でも きみの住んでいた
小さな街のどこにも森なんてないのに
ぼくはあの深い森の匂いを時々想い出す
それから少なくはない女性と
夜を共にしたけど
あの夜の深い森の匂いは
あの夜のものだけだったんだと
ぼくは少しづつ知っていくだけだった
あの深い森の匂いに包まれるなら
あの夜にだけは戻りた
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