残像/ただのみきや
 

生かしたまま 長々と啜るために


やがて女は絶望と堕落という双子を身ごもったが
いつまでもその胎が開かれることはなかった
それでも唯一の生きた証 子らに聞かせるのは
かつて月へ捧げて詠った
幾百という愛の詩

心の闇に冴え冴えと浮かぶその横顔
幾重もの波紋が瞳を揺らし
唇だけが少女の情熱を纏っていた
夜風にゆれては闇に消え入る花びらのように
微笑みながら想うのだ

この世界はすでに滅んでいて
今あるものは全て 誰かが見ている残像なのだと
それは強ち嘘ではなかった
その時 すでに瞳は閉じられて 二度と
目蓋が開くことはなかったのだから

やがて亡骸を喰い
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