冬の日/ホロウ・シカエルボク
まるで飾りたくない絵画みたいな光景だった
気が付いたら港の方まで歩いてしまっていて
存在すら飛ばしてしまいそうな海からの風に吹かれていた
海の向こうには憂鬱な気持ちのような雲があった
きっと雪が、途方もなく降っているのだと思った
近くに止まっている客船の乗組員だろうか、こちらにやってきて
もしよかったら火を貸してもらえないかと恐縮した
ポケットを探るとどこかでもらったマッチがあったので箱ごと渡した
男は滑稽なほど頭を深く下げて
煙草に火をつけて深く吸い込んだ
海の上は寂しくはないか、とわたしはたずねた
男はふぅー、とほそくながく煙を吹き出して
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