冬の日/ホロウ・シカエルボク
した似顔絵描きはいきり立った客にわずかな金を返した
似顔絵描きに掴みかかった客は舌打ちをしながら小銭をポケットに突っ込むと
なにかから逃れるように表通りの方へと急いで行った
似顔絵描きは俯いたまま
自分がさっきまで描いていた絵を眺めつづけていた
もしかしたら彼はうまく描きすぎたのだ
あの男が触れてほしくないなにかについて
彼の絵は踏み込んでしまったのだろう
老婆は犬とともに死んだように寝ていた
ベンチで吐いていた若者もそうだった
似顔絵描きは似顔絵を見つめ続け
そのほかのものは死んだように眠り続けていた
太陽の角度が変わってもそれは変らなかった
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