ともだち/片野晃司
ときみの狂おしく重複する説明たちが殻を軋ませるとき、きみは
その殻のなかですこし身じろぎをする。たぶん
《永きにわたりご愛顧いただきました言語ではございますが》
誰かが同じことをどこかで説明している。つまり
この通勤電車の同種の細胞の集合体のように渾然と揺れている、その
一部を摘出して、どれかがぼくであり、どれかがきみであり、こうして
膝の間から胸元までが触れるほどにきつく組み合っているあいだ、これが
ほんとうにぼくたちなのか、そもそも
ぼくたちはほんとうにともだちなのか、その
疑念がきみについての説明にはじめから含まれている。ぼくは
ここにいて、ぼくのことをきみが説明
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