燃えないゴミ/佐々宝砂
 
なた」もまた、存在しない、昨日は確かにいたはずなのにもういない。消えてしまったのです。頼りなげな影だけが地面に伸びています。

現時点に存在する確たるものは、ベクトルだけです。いえ正しく言えばスカラーなのですが、とにかくそこには何らかの向きと大きさがあります。この矢印が持つ向きと大きさに方向を加えることができた存在と、それを要求していた主体は、いずれも存在しなくなってしまいました。鉄の匂いなつかしい液体が、この乾涸らびた白砂を濡らすことはありません。ないないづくしの空虚で清潔な乾いた砂漠に、起点も方向も失ったスカラーの大きさだけが増してゆきます。

けれど増大してゆくスカラーがまやかしを紡
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