北風と太陽/佐々宝砂
風のまとう雪のかけらは、単なるぶあつい雲でしかなかったのですが、北風は、地上のことなど知りません。考えもしません。ただ吹いてゆくだけです。
山を駆け下りるにつれ、雪のかけらは、本物の雪になって地上に落ちてゆきました。太陽もすっかり沈んでしまいました。だから、北風はもうきらきらしてはいません。でも、とても身軽でした。身軽すぎるくらいに、身軽でした。
北風は、夜の世界を勝手気ままに吹き荒れました。まず、穏やかな海に出てみました。すると、高い高い波が船を揺すぶりました。船員たちが船の上で右往左往します。北風はそれを見て、からからと笑いました。それから地上に戻り、小さな家の、古ぼけた窓
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