北風と太陽/佐々宝砂
 
 北風はものごとを深く考えません。単純で、勝手で、自由なのです。

(ぼくは生きてるんだ!)

 北風がそのことに気がついたのは、高い山を駆け下りているときでした。それまで北風は、何ひとつ、考えたことがなかったのです。

(ぼくは、いま、生まれたんだ、ぼくは自由だ、生まれたてで、自由だ)

 北風は山を駆け下りながら、つぶやきました。

(ぼくはなんてきれいなんだろう、きらきら光る、きらきら、きらきら)

 北風は、白い雪のかけらを全身にまとっていました。雪のかけらは、夕暮れの太陽に照らされて輝いていました。それが北風には嬉しかったのです。地上から見たら、北風の
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