matria/紅月
 

ははの、
瞳の、深淵の、
水のなかで泳ぐ
日本語たち、


黎明の背中が
裂けては産声が響き、
またひとつ、またひとつ、
手折っていく、水際から、
ぱらぱらと赤い砂がおちて、
しだいに、罅割れた
タイルの街に積もっていく、


(影絵はより大きな影絵の逆光へと呑まれ、
記号はより大きな記号の失語の前に無力だった、
だった、と、こうして、
語りはじめたきごうが、
ぱらぱらと空から降る、
降ってくる、豪雨する、
そのさなかで、夜を待つ、
待つ私の、青い血の飛沫、
ひらがなが洪水する、
洪水する、母が、
翳した、利き腕から、
ひらがなが洪水する、
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