「あなた」と「私」に幸あれと/佐々宝砂
るのは非常に容易てあると思われた
そのせいか「あなた」と「私」は
どちらからともなくその柵を登りだした
柵のてっぺんにたどりついたところで
ケンカになった
つまり「あなた」も「私」も
消えてしまいたいのである
何でものみこむらしい霧吸の井戸に
身投げしてしまいたいのである
しかし「私」は「私」が消えても「あなた」を残したい
そして「あなた」は「あなた」が消えても「私」を残したい
そんなわけで柵のてっぺんでつかみ合いをはじめたが
そんなことをしたら柵から落ちるに決まっており
実際「あなた」と「私」は当然のことながら柵から落ちたが
井戸のある側に落ちたのではなかった
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