「あなた」と「私」に幸あれと/佐々宝砂
れるものがありまして
コンクリートの柵に囲まれた空間の中央
ぽっかりと暗い穴が浮かんでいて
あたりがなんとなく涼しいのは
その穴に空気が吸い込まれてゆくからであった
こんな井戸があったら超常現象に間違いないのだが
お忘れのないように
この雑文は創作に過ぎないのである
霧吸の井戸なんかこの世のどこにも存在せず
類似の名称類似の現象があったとしても
それは偶然の一致に過ぎないのだとお断りしておく
井戸のまわりには先ほど述べたように柵があり
柵と柵とのあいだは頭も入らないほど狭かったが
柵の高さはそれほど高いわけではなかった
せいぜい2メートルというところであり
登るの
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