海の誘惑/まーつん
 

 まとめて片づけることができるのよ

 もう二度と過去を振り返って
 怒りの炎に身を焦がすこともない
 悲しみの涙に頬を濡らすこともない
 
 どうかしら
 私に彼らを預けてみない? ゛

僕はスクリューを回すのも忘れて
夢の中の囁きに聞き入っていた
人気のない操舵室では
ひとりでに回っていた舵が凍りつく

船上では 夜会服に身を包んだ乗客たちが
カクテルグラスを片手に談笑している
僕の人生の中に現われた たくさんの悪役(ヒール)たちが
見知らぬはずのお互いに 親しげな笑みを浮かべ合う
彼等の装いは一様に黒 そう 皮肉にも 葬送の義の参加者のように
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