インド人 吉田 (後)/salco
国である。一日たりとも忘れた事はなく、切り捨てた覚
えもない。ゆえにこそ生涯肉食と飲酒をせぬのと同様、こうして庚申塚に通
い頭を垂れてマントラを唱える。
ここは移り住んだ翌年か、風邪で寝込んだ妻の代わりに娘を幼稚園のバス
に乗せた帰り、脇道の誘惑で見つけた。
コンパクトな景観を目まぐるしく変える経済大国の住宅街で、こんな些細
な石碑が守られている。健気なスプレーマムやカーネーションの供花もまだ
新しい。無力なほどに真摯な祈りにも、幸福の尺度にも、なるほど文化や国
民性の別などありはしない。
後日見て来てもらうと、馬頭観音を祀る民俗的な仏塔で、碑の横腹には寛
政六年の建
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