その日/nonya
を左右に動かして
「いらない」と言った
いや 言ったような気がした
母と言葉を交わしたのはそれが最後だった
とても穏やかな冬晴れの午後だった
何かを話そうとして振り返ると
いつの間にか母は寝息をたてていた
時間だけがさらさらと零れ落ちていくばかりだった
容態が急変しました
その日
11月最後の夜
病院から電話があった
今度こそしっかりと覚悟を結び直して
タクシーで病院へ向かった
薄暗い迷路のような病棟の廊下をすり抜けて
病室に駆け込むと
数名の医師が母の傍らに影のように立っていた
息子さん来られましたよ
担当医が慈しみに満ちた声で
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