その日/nonya
声で呼びかけた
私も何か言わなければならないと思ったが
言葉が喉につかえて出てこない
息子さんが来られたから心拍が少し
担当医が言い終わる前に私の何処かが破れた
哀しさと悔しさと申し訳なさとあてどなさと安堵
そんなものが入り混じった汚い水が
私の中から一気に溢れ出した
私は子供みたいに泣きじゃくっていた
長い長いモラトリアムが終わった
つっかえ棒をはずされた私は哀しいくらい自由になって
決して晴れることのない霧の中へ投げ出された
なぜ分かっていたのに許してあげられなかったのだろう
なぜ恩と情の寸劇を上手く演じられなかったのだろう
私が優等生だったら良かったのだろうか
私がマザコンだったら良かったのだろうか
自分で自分を責めたところで誰も裁いてはくれない
裁かれない罪を自分の真ん中にしっかり抱え込んで
黙々と地の果てを目指すしかないんだよ
母は今でも時々私を叱る
私の左の耳たぶの裏側あたりで
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