その日/nonya
 
て私は毎日母を見舞った

それでも壊れかけた母と交わす言葉は
あまりにも少なくて
帰り道はいつも後ろめたさを引きずりながら歩いた


苺を買ってきたよ


ある日
受け手のない声は病室の真ん中で失速した

丁寧に洗ってヘタをとった苺をふたつぶ
皿にのせてベッドテーブルの上に置いた
表情のないカーテンとベッドと点滴スタンドと母
白夜のような沈黙の中で苺だけが真っ赤だった
ゆっくり食べてねと言う声が僅かに震えた

小動物のように前歯で少しずつ苺をかじる母
おいしい?と訊くとコックリとうなずいた
母の形をした6歳の少女がそこにいた
もっと食べる?と訊くと首を左
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