黒田三郎詩集 現代詩文庫を読む/葉leaf
となることがあっても、決して手段にはなりません。黒田はユリに無償の愛情と無償の保護を与えます。ユリに関することは、「小さなあまりにも小さな」ことですが、黒田はそのことにとらわれて「身動きひとつできない」。「両国の川開き/徳球北京に死す/砂川の強制測量開始/台風二二号北進」このような交換可能な社会的出来事は、「無声映画のように流れてゆく」。「歩いていることだけが僕のすべてになる/小さなユリと手をつないで」このように、父子二人だけの閉ざされた空間は、あまりにも小さいにもかかわらず、黒田の心身を全面的に支配しています。
このように、ゲマインシャフト関係とは、全体社会から見たらあまりにも小さな局所にす
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