手錠とその因果/MOJO
 
男が部屋に入ってきた。

「相違ないです」
 取り調べが始まると、私は全ての質疑にそう答えた。机上の調書の空欄に文字が埋められてゆく。武骨で節くれだった指からは意外なほど繊細な字体だった。そのとき突然のドアが開いて、制服姿の警官が部屋に入ってきた。夜勤開けであるらしいその警官は「失礼しました」と頭を下げ、あわただしく部屋を出ていった。私はその警官に見覚えがあった。

 それは三月ほど前の、やはり朝のことである。
 私は毎朝始業の一時間前には出社する。勤勉なのではなく通勤ラッシュが嫌いだからである。通勤ラッシュ時のあの芋洗いのような車両で吊革に掴まりじっと耐えるよりは、一時間早く起きても
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