男/たもつ
 
いのする消しゴムが欲しくて町の小さな文房具店で万引きをしたことがある。まんまとその犯罪は成功したわけであるが、良心の呵責からだろうか、戦利品を学校に持っていくことも出来ず、かといって家の者に見つかることを考えるとごみ箱に捨てるわけにもいかず、机の引出しの一番奥に仕舞い込み、二度とその消しゴムを見ようとはしなかった。その時の途方もない持て余した感覚にどこか似ていた。ただ違っていたのは、しばらく迷った挙句、男は持て余したそれを頁を一度もめくることなくコンビニエンスストアの店先にあるごみ箱に捨てたことだ。無論、可燃ごみの方に。
その夜、男は寝床の中でまだ見たことのない生物(それは恐らく深海、若しくは高
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