うしろのおっさん/川上凌
でしか来ない。ここで降りるわけにはいかないのだ。降りたら負けだ!妙な意地が発動しはじめたころだった。
おっさんがあくびした。
むわり、とおっさんの呼気が周囲を包んだ。
おっさん特有の呼気は思春期にとって耐えがたいもの。だけどなぜか嫌じゃなかった。(変態的な意味ではない。)
終点のいっこ手前のバス停で、おっさんは降りて行った。
うしろは一度も振り向かなかったから分からなかったが、おっさんはハンチング帽にしわしわのスーツを身に纏っていて、藤色の傘を杖代わりにして、不格好な長靴をガポガポと鳴らして降車していった。
五十か六十くらいの齢だと推測したが、本当はもっと若いかもしれな
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