うしろのおっさん/川上凌
れない。おっさんの背中が情けなく、ずいぶんと小さく見えたから。そう思った途端に、あのおっさんの人生のなにかが、脳みそに直接なだれ込んでくる気がした。
ああ、あのおっさんもなかなか色々なものを抱え込んでいるのだな、あのおっさんの齢の三分の一もいかないであろう私の悩みなんて、ちっぽけで図太いものなのだ、と思った。
むしろあのおっさんのほうが、大きく儚いものをたくさん抱えているはずだ。
気付くと終点で、バスに残っていたのはわたしだけだった。
慌てて降車して、あのおっさんの長靴を思い出しながら、ローファーの踵を鳴らして歩きだした。
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