【批評祭参加作品】偽善、または『紫苑の園』/佐々宝砂
 
でいたいし、不必要な嘘はつきたくない。だけどそんなことは言いにくい。なんで言いにくいのだろう、と私はよく悩む。

 『紫苑の園/香澄』という物語は、現在の私の目に眩しく映る。ほんの一、二年前に眩しく感じた以上に、辛いほどに、眩しくみえる。なぜそうなってしまったのだろう。私のなかには、この物語の主人公・香澄が持っているようなやわらかくやさしい芽はもうないのだろうか、自問自答しながら私は自分の心を探る。ないわけではない。ないわけではない、ということを、私は誰よりも理解している。それは私の心のことだから。

 なにかことあるたびに偽善的だと眉をひそめる人がいる。言いたければ言えばよい、という気分
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