【批評祭参加作品】偽善、または『紫苑の園』/佐々宝砂
 
本当に長いこと憧れだったけれど、実際に彼女の本を読んだのは、私がもう三十過ぎて結婚もして恋も憧れもどうでもよくなってしまってからのことだった。松田瓊子の本は瀟洒で高価な復刻の愛蔵版ばかりだったので、金のない田舎の少女には高嶺の花だったのである。

 しかし、今なら文庫で安く買える。図書館にも揃えられている。必要なときに必要な本を読むことができる今時の若いヤツらは、つくづく幸せだと思う。

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 という、感傷的な書評を書いたのは、去年のことだったか、おととしのことだったか。この書評を書いたとき、私が本当に書きたかったのは、「それは偽善だ」という非難に対する微妙な異議申し立てだった
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