【批評祭参加作品】偽善、または『紫苑の園』/佐々宝砂
 
ないか、と私はふとおもう。

 たとえば松田瓊子の『七つの蕾』という作品は、ただ単に美しい生活を描いただけの小説である。そのような小説は少女小説のひとつの定型だ。しかし『紫苑の園/香澄』は、それだけの小説ではない。プロテスタンティズムの薫り濃厚に、ひとりの少女の精神的な成長を描いている。良妻賢母的な成長ではない。そこにはひそやかな反逆を隠した意志的な力がある。だからこそ私は、このちいさな作品を愛惜してやまないのである。

 よりよい生活、愛ある家庭を目指して何が悪かろう。平和とやさしさと清純と奉仕の精神に憧れて何が悪かろう。崇高なものを求めて何が悪かろう。大きな声で「それは悪いことだ」
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