【批評祭参加作品】偽善、または『紫苑の園』/佐々宝砂
を繰っても薔薇と紅茶とお菓子の匂いがして、少女たちの嬌声がきこえる。中原淳一の絵がよく似合う。物語の背景にはキリスト教への憧れがある。そういうのが生理的にダメというヒトは、無理に読まなくってもいい。
悪人は一人も出てこない。みなやさしくて個性豊かだ。少女たちは、面白いこと、馬鹿馬鹿しいけど楽しいこと、すてきなこと、美しいこと、愛らしいこと、そういうものやできごとを日常生活に探して、もし見つからなければ自分たちで造り出してゆく。朝な夕なに歌を歌い、夜毎に自分の大好きな物語について語り合い、レースを編み、花を育て、そうやって生活を美しくしてゆく。こういうのが本当の意味での「勤勉」なのではない
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