【批評祭参加作品】大手拓次のこと/佐々宝砂
 
ては、彼の生涯を貧しいものと見るだろう。しかし彼の内面は豊かであった……と書けば感心する人がいるかもしれないけれど、陳腐な気がするから書かない。彼の内面がどうだったのか、私は知らない。しかし私は、大手拓次の詩と生き方にあこがれた。彼のように孤高に生きたいと思った。だが私は意志が弱い怠け者だったので、恋愛をプラトニックなままにとどめておくことなんてできなかったし、まっとうに会社に勤めることさえできなかった。

 もちろん彼に匹敵するような詩など、私には書けない。大手拓次が独学でフランス語を修得しフランス詩の原著に学んでいたことを知って、私もフランス語をやってみようとしたが、一年で挫折した。私は
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