【批評祭参加作品】大手拓次のこと/佐々宝砂
 
手拓次という詩人を好きなのは、彼が人づきあいの悪い詩人だったせいかもしれない。一八八七年に生まれたこの詩人の人づきあいの悪さは、かなり重症である。歯磨き会社の広告部員として働きながらひっそりと詩を書き、独身のまま四十六歳で死んだ。プラトニックな恋はしたらしいけれど、女性と交際することなんてなかったらしい。大手拓次は、北原白秋門下で萩原朔太郎や室生犀星と並び称されているが、羞恥ゆえなのか、孤独癖ゆえなのか、北原白秋の雑誌以外には作品を発表せず、生前は一冊の本も出さなかった。文壇との関わりをほとんど持たなかったせいだろう、現在に至っても作品の質に見合うだけの評価を受けていない。

 人によっては
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