通路としての文学/葉leaf
 
はなく、読者は文学作品と向き合う時に自らを発掘する。記憶の深部に隠されたもの、意識の深部に隠されたもの、不意のひらめき、読者はそういうものを自分の中から発掘しながら文学作品の補完作業を行うのである。
 人間は、自分の人生に顕在的・潜在的に存在する多くの問題を解決しないまま日々を過ごしている。それらの問題は、精神分析的な立場からは、人間のさまざまな行為や心理に現れていると主張されるかもしれないが、特段解決されないままでも人間の日常生活に大きな支障をきたさない。人間が社会的な役割を果たしていくうえで、人生の文学的な問題など大して意味を持たないことが多い。だが、人間の成熟や人間性の深みなどは、それら人
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