夜の鯨/ねことら
 


街に秋がきている。
きみが巻く気の早い時期のマフラー。
種のバレた手品みたいにやさしくて、いたたまれない気がして、ちょっと手をつなぐ。
僕は小銭入れしかもたなくて、携帯は止められてて、
かばんにはパーカーのペンと、ノートと、
ジョンアーヴィングの短編集しか入ってない。
きみは相変わらず外国製のミネラルウォーターに口をつけている。
どこへいく約束もない。しずかで穏やかだ。


夜になると、そのたびにまあたらしい鋲がひかっている。
てやうでにそのままある。つきのひかりにかざして、すこし見とれる。
テーブルには誰もいなくて、コーヒーのこべりついたマグの縁に羽虫がとまってい
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