夜の鯨/ねことら
に数秒おきに口を付ける。あたりを見渡しながら。
TSUTAYAの看板や点字ブロックの黄色がモンスターのように思えてずっと緊張している。
電車に乗ってあんなにたくさんの人が何処へ行くのだろう。
乗客はみな、探しものをみつけられなかったような疲れた顔をしている。
ひどくひらべったい。近寄れない。
時折、ぼくらの背後の空から歯車がきしむ、澄んだ金属音がひびく。
そのたび、きゅっと心臓がつかまれたようになる。息をひそめる。
何事もなければ息を付き、そのたび1歳年をとってしまったように感じる。
なにかおおきな流れのなかにいることを感じる。
ふたり、もくもくとあるく。
[次のページ]
戻る 編 削 Point(3)