風のなかの詩人たち/石川和広
 
れていくのだろうか

 風が吹いているのに
 私の苦しみには理由がない。

 私の苦しみには理由がないのだろうか、

 たった一人の女を愛したこともない。
 時代をはかなんだことすらない。

 風がしきりに吹いているのに
 私の脚は岩の上に立っている。

 江がしきりに流れているのに
 私の脚は坂の上でとどまっている。



朝鮮半島から日本へ留学したり、なかなか、その立場は複雑なものを感じさせる。
金時鐘氏による力のこもった訳、いたましい詩である。
僕は以前、麦朝夫という詩人を「生の通行人」と云ったが、
ユンは、風は前に歩くことすらできない。
生の途絶
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