ジョーイ/ホロウ・シカエルボク
リーのこと、施設の人たち
家に帰るお金を貸してくれた老婆のこと
春の香り、夏の温度、秋の風、冬の雪
いろいろな出来事が思い出された
きみはそれまでそんな風に
なにかを思い返すということをしたことがなかった
頭の中にあったのはいつも
可愛い妹の笑顔だけだったのだ
これはなんだろう、ときみは思った
きみは思い出というものを知らなかった
そして動けないきみは
いつかその記憶の出来事の中にゆっくりと沈んでいくようになった
沈めば沈むほど
忘れていたことが静かに形をなしてきた
きみの家はとある小さな街の住宅地の端っこだった
生まれたのは庭が茶色い落葉でいっぱいになるころ
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