ファンタオレンジ/永乃ゆち
 
時には

当時13歳だった私は

声も出せなくて、必死で泣くのを堪えるのが精一杯だった。

お母さんが

「ほら、ゆち、『おばあちゃん、ゆちだよ。分かる?』って話しかけて」

と言ったが、とても話しかけられなかった。

おばあちゃんは、私の事も、お母さんの事も分からなくなっていた。



何十年も連れ添ったおじいちゃんの事も。



おばあちゃんは、暴れてチューブを抜こうとするので

手足をベッドに縛られていた。



「なんでこんなに縛られなきゃいけねぇんだ。

おら、何も悪いこたぁしてねぇぞ。」

としきりに言っていたそうだ。


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