宛名のない手紙/動坂昇
。
いいえ、そうじゃない。あなたは、最初から、何人であろうとその前に、ひとりの人間でした。
これは、人間の残虐性なのです。
人間が、人間である限り、戦わなければならない、おのれの内に潜む残虐性なのです。
その残虐性は日本人のなかにだけあるのではありません。人間である限り、誰にでもあります。現に、あなたのなかにもあった。ひとりの人間を、まわりと同じ人間として扱わずに、虫けらみたいに痛ぶってしまう、そんな残虐性が、あなたのなかにもあった。
けれど、人間は、そういうことをした時点で、むしろ、人間でない、悪魔になってしまうのです。だから、あなたが、人間でいつづけるためには、彼を虫けら扱
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