宛名のない手紙/動坂昇
 
、これはあなたが自分で考えているうちに出てきた言葉ではないでしょう。大人たちは、あなたにその語彙を教えたけれど、あなた自身の頭で考えることを教えなかったのでしょう。そして、あなたがその語彙を繰り返すたびに、よくわかっていると言って褒めたのでしょう。
 実は、私も、幼いころ、同じ言葉を聞いたことがありました。けれど、大人たちからではなくて、仲のよかった友だちからでした。その友だちは女の子で、きれいな声の持ち主でした。とても活発で、おもしろくて、私はその子と一緒に歌うのが楽しみでした。あるとき、その子の生まれについて知りました。
 「あたしのお父さん韓国人やねん」
 「へーそうなんやー」
 言
[次のページ]
戻る   Point(0)