祭の夜、拳銃を探す/草野春心
小雨の降る
夏祭の夕べ
タキシードを着た中国人が
屋台と雑踏を縫って歩く
みすぼらしい電飾にきらめく
濡れたビニール傘の匂い
その中国人の着る
タキシードはあくまで白く
ぬかるんだ土を踏みつけて歩く
靴にさえ、汚れ一つない
けれども故郷を遠く離れて
母親のうたう歌も忘れ
南風に曝された彼の心に
赤い染みは日ごと滲んでゆく
中国人は拳銃を探している
それもまた、手垢ひとつない
美しい黒い光を湛えた銃を
祭の宵、楽しげな人々の声を背に
彼は探し続けている
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