さよなら、と黒焦げた蛾は言った/ホロウ・シカエルボク
人々が浮かれた声を上げる明け方、俺は
狂った声を壁の穴ぼこにねじ込み続けていた
その向こうでは標準的な雨の音が隣家の屋根を叩き続けて
睡魔はとりあえず二の次にされていた
生きることは肉体を雑巾のように絞り上げることだ
たとえそれで繊維のひとつふたつ失うことになってもだ
雨に打たれたわけでもなのに俺は濡れそぼって、そう
うんざりするほどの湿気に汗をかいていたんだ、肉体的な話だけをするなら
現実はそんな風にしか語ることは出来ない
明るい方へいらっしゃいよと窓の向こうでノックする蛾が
こ洒落た柄のハンカチみたいなでかい蛾が
それから偽の太陽に焼かれて焦げた
雨は相
[次のページ]
戻る 編 削 Point(3)