にぎわし日/田代深子
 
に振る
黒い小さい手が板の目にころりと
こよのひざの前に
ほそい黒い指に爪がそろう親指のまるく曲がり
よん本の指がゆるい空待つかたちの
小さい黒い手 わたしはその手を
壺に納めた震えてはならない かな小父は
また三度うなづく
おれのむすめは学問をしにでかける
はじめて板間に額づいた こよの息づかいを避け

お宮わきに板の間ひとつ
戦争が終わってひとり流れきた子が
七十年 親ゆずりの三弦を鳴らし
あてがわれたなりわい薬まき獣とり土運び
三十年 背をいためて修繕と古物をさばいた
流れきた紅木棹の三弦
在の小母らのふるした衣にやわりとくるみ
蓋かけの志戸呂茶壺ひざに抱
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