時代外れなエッセイ 虫/佐々宝砂
ったと思う。ふらふらと小用を済ませてから、煙草を一服しようと先のたき火の近くに座り込んだ。すると、かまど近くの石に何か小さな黒いものがあった。なんだろうとよくよく見たら、例の謎アゲハだった。熾き火の明るさを恋しがって、明かりの消えたランタンからここまで飛んできて、死んだらしかった。おそらくたき火の熱で死んだのではない。石の表面は冷えていたし、謎アゲハの身体は、焦げたり焼けたり変形したりはしていなかったから。
「飛んで火に入る夏の虫」と言うけれど、この謎アゲハは、火に入ることもなく死んだわけだ。まだアルコールを充分残していた私の脳味噌は、この「飛んで火に入らず死んだ夏の虫」のことを可哀相に思っ
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