時代外れなエッセイ 虫/佐々宝砂
 
虫だって、虫は単純に虫として生きている。

今年はばかに小さなアゲハを見かけた。形は間違いなくアゲハ、尾は短め、腹が赤と黒のストライプだったのはジャコウアゲハに似ていたものの、あまりに小さすぎた。モンシロチョウ程度の大きさしかなかった。小さいというだけでもなんだか哀れを誘う蝶だったが、なお哀れなことに鱗粉がかなり剥がれていて、今にも死にそうに思えた。そいつを見かけたのは家族連れの多いオートキャンプ場の中だったから、子どもにつかまえられそうになって羽を痛めていたのかもしれない。こいつどうせもうすぐ死ぬのだろうなと思いながら、私はその蝶をつかまえようとは思わなかった。標本にしてあとで図鑑で調べよう
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