遠いまなざし/takano
ちの視線につらぬかれて
旅人は虫の羽音に異和をとなえたかったけれど しゃがみこんだ胎児の体躯をさらしていた
執拗なその振動は命そのものような畏怖をよびおこし 瞑黙をしいてくる
白夜の眠りの畔で、わたしは霧がかった農村の入り口にたち 白煙にかくれきえかかった足取りをたどり、ひきかえすことに執着していた
もはや実態のなさそうな 心象とおもわれた視覚の凹凸と色合いに なにかの意味をさぐることは無益におもえた その場を一刻もはやくたちさることこそ(未来はひらけるのだ)ともささやかれた
彼は土間をへだてた框までの敷石の上を そぞろあゆみよっていく 一足一足が交互にふみだ
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