遠いまなざし/takano
 
もたちの鹿道となって湯だちはじめる
 過去とおなじ自然の照射をあびながら 支配の掟によって景色の変容をさまたげられてきた

 またひとびとは脱出も逃走もみずからのぞんではいなかったけれど その風景に埋まり生きるしかないと信じていた
 しずかで穏やかな生活の疲れは(ここちよいともかんじられた)と旅人は思いはせた


 いたいたしい亀裂を舐めてアポリアをのぞきこむと そこにはかたく口をむすんだ廃屋が ようやく素材の重さに耐えていた
 霊気もひとかげもうせた ただ己の過去の舞台として其処にあった
 あのときの外者がいた アポリアに囚われフリーズしたままの姿で
後背にただよう死者たちの
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