まぼろしの亡骸/ホロウ・シカエルボク
 
りととてつもない長い時間をかけてそいつは溶けた、そいつが溶けてしまうとあとには裏返ったような眼球だけが残った、一匹の蛾がそのそばを舞っていた―目玉はあたりの感触を確かめるみたいに左右に揺れたあと、ポーンと跳ねて猫の身体の中に戻っていった、すると猫の身体は砂山のように崩れ…腐りきれなかった内臓と骨だけがそこには残った、無数の蛆が蠢いていた…


部屋の中で、激しい猫の鳴き声が響いた、俺は反射的にあたりを見回した、猫の姿などそこにはなかった、当り前だ…安堵しかけたとき、頬に何かがへばりついた、指で拭ってみると、まさしくあの、猫から出てきたものが溶けたときに後に残されたものだった―俺は再生を止め
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