遠雷のした/月乃助
臭いと呻き声が、耳のすぐ横にある
遠ざかる意識のなかで、着てきた買ったばかりのウィンド・ブレーカーのことを考えている
とうに雨はやみ
ありうべきはずのない角度の、
脚が天をさしている
頭さえもない私の体をもとめ、もう 狐がやってきた
蠅の羽音、無数の虫たちの咀嚼、鳥たちもみな
饗宴によばれる
・
足元に気をとられ
女は、それがそこにあることさえ気づかずにいた
谷へ崩れ落ちる その瓦礫の上に
首を失った鹿が横たわる
谷へと落ちそうな あやうい平衡をたもちながら
森にその身を捧げている
でも、それは、女自
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