時計の中のこびとたち/佐々宝砂
 
うかと彼は思い、そうではないことを確かめるためにもう一度時計に耳を当てた。

「支度できた? さあ、早く行こうよ」

 間違いではなかった。時計の中で確かに声がする。彼は怖くなって時計を放り投げた。かしゃん、と音を立てて時計が転がった。そして、その中から、三人のこびとが出てきたのである。背の高い(といってもやっと三センチの)こびとと、背の低いずんぐりむっくりのこびと、それから、背は高いけれどとても華奢なこびと。彼はどぎまぎして目を反らした。こびとを見るなんて、これはアル中の禁断症状ではなかったか。もっとも彼はろくに酒の飲めないたちだった。
 ずんぐりむっくりのこびとが、咎めるように
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