時計の中のこびとたち/佐々宝砂
ったのは、小さな目覚まし時計だった。毎日お世話になっている、しかしいつから使っているのか忘れてしまった古い時計。黒い文字盤に赤と緑の葉っぱを描いてあるのが唯一の飾りで、何の変哲もない時計。彼は起きあがって、その時計を手に取ってみた。手をぶつけたせいか、時計の中で奇妙な音がするのである。カチコチといういつもの音とは違う。何かもっとちいさい音、誰かがぶつぶつと小声で喋っているような―――彼は時計に耳を当ててみた。幼い頃よくそうしたように。
「ねえ、早く支度してよ、遅れちゃうよ」
彼はびっくりして耳を離した。かん高いきいきい声が確かに聞こえたのだ。おれも幻聴を聞くようになったのだろうか
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