時計の中のこびとたち/佐々宝砂
 
。彼は自分のドアに鍵を差しこみながら、隣の閉ざされたドアを盗み見た。彼は、その部屋に自分と同い年くらいの女性が住んでいることを知っていた。彼女が独身で、恋人がいないらしい、ということも知っていた。けれど彼は彼女に話しかけたことがなかった。
 彼はあまりきれいとはいえないごたついた部屋に上がり、あぐらをかいた。夕飯を作る気力がなかったのでカップ・ラーメンでも食おうかと思ったが、あまりに情けない感じがして、やめた。彼はとりあえず寝っころがることにして、足を投げ出し、それから両腕を伸ばしてそのままひっくり返った。そして彼は悲鳴をあげて飛び起き、左手をさすった。
「いてて」
 彼の手に当たった
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